アラン・ルノーは、西洋の近代の骨格をなす主体、個人というテーマをめぐるフランスでの論客として有名です。構造主義によって「人間の終焉」(実際には「人間」という「近代の概念」の終焉と言うことなのですが)が叫ばれましたが、それに対して、一部の構造主義に見られる機能主義に対して、「人間」と「主体」を中心に据えよう直そうという立場です。
主体性哲学、正義論、民主主義論、主権論といった政治哲学の基本的な問題に関する考察を深める一方で、現代社会の具体的な諸問題−社会主義、共和主義、コミュノタリスム、ネオ・リベラリズム、多文化主義、ジェンダー−に関しても積極的な発言を続けています。
実践的な政治思想家でもあり、今回のビジコンのテーマである「大学改革」の問題に関して言えば、フランスでの大学改革の指針を決定する中枢部で重要な役割を果たしています。
2001年7月16日に当時の文部大臣ジャック・ラングに大学の将来像を描いて欲しいと委託されたアラン・ルノーは、フランスの大学改革の骨子を2002年に答申しています。今回のビジコンでは一つの叩き台となりうるものなので、大学像の歴史と現実と未来を見据えたその答申を以下に簡単に紹介します。 続き。。。
---Des droits de l'homme a l'idee republicaine / Luc Ferry et Alain Renaut -- PUF, 1985
---Systeme et critique : essais sur la critique de la raison dans la philosophie contemporaine / Luc Ferry, Alain Renaut. -- Ousia, Bruxelles1984
---La pensee 68 : essai sur l'anti-humanisme contemporain / Luc Ferry, Alain Renaut -- Gallimard, 1988
68年の思想 : 現代の反-人間主義への批判 / リュック・フェリー, アラン・ ルノー著 ; 小野潮訳. -- 法政大学出版局, 1998. -- (叢書・ウニベルシタス ; 603)
---Le systeme du droit : philosophie et droit dans la pensee de Fichte / Alain Renaut. -- PUF, 1986
---68-86, itineraires de l'individu / Luc Ferry, Alain Renaut. -- Gallimard, 1987
68年-86年個人の道程 / リュック・フェリー, アラン・ルノー著 ; 小野潮訳. -- 法政大学出版局, 2000. -- (叢書・ウニベルシタス ; 692)
---Heidegger et les modernes / Luc Ferry et Alain Renaut. -- B. Grasset, 1988
---L'ere de l'individu : contribution a une histoire de la subjectivite / Alain Renaut. -- Gallimard, 1989
---Philosophie du droit / Alain Renaut et Lukas Sosoe. -- PUF, 1991
---Qu'est-ce que le droit/ Alain Renaut --Vrin, 1992
---Sartre, le dernier philosophe / Alain Renaut. -- B. Grasset, 1993
サルトル, 最後の哲学者 / アラン・ルノー [著] ; 水野浩二訳. -- 法政大学出版局, 1995. -- (叢書・ウニベルシタス ; 504)
---Les revolutions de l'universite : essai sur la modernisation de la culture / Alain Renaut. -- Calmann-Levy, 1995
---L'individu, remarques sur la philosophie du sujet / Alain Renaut -- Hatier, 1995
個人の時代 : 主観性の歴史 / アラン・ルノー [著] ; 水野浩二訳. -- 法政大学出版局, 2002. -- (叢書・ウニベルシタス ; 738)
---La guerre des dieux : essai sur la querelle des valeurs / Sylvie Mesure & Alain Renaut. -- Grasset, 1996
---Kant aujourd'hui / Alain Renaut. -- Aubier, 1997
---Liberalisme politique et pluralisme culturel / Alain Renaut. -- Pleins Feux, 1999
---Philosoher a dix-huit ans, faut-il reformer l'enseignement de la philosophie? / Luc Ferry, Alain Renaut ; avec la collaboration de Pierre-Henri Tavoillot -- Bernard Grasset, 1999
---Alter ego : les paradoxes de l'identite democratique / Sylvie Mesure e t Alain Renaut. -- Flammarion, 1999
---Histoire de la philosophie politique / sous la direction de Alain Renaut avec la collaboration de Pierre-Henri Tavoillot et Patrick Savidan -- Calmann-Levy, 1999
---La liberation des enfants, contribution philosophique a une histoire de l'enfance / Alain Renaut -- Bayard, 2002
---Que faire des universites / Alain Renaut -- Bayard, 2002
パリーソルボンヌ(第四大学)倫理哲学・政治哲学教授。
パリ第四大学の社会学・哲学教育研究系学部長
大学政策に関するヨーロッパ学監察局長
大学教育での一般教養文化に関する研究・提言調査団
新らしい哲学徒双書(Grasset社)の 共同主幹
大学組織において現在進行中の改革に関心のある日本の友人達と対話できることは喜びであります。私は日本へ2002年9月に同僚である早稲田大学のイシドウ教授の招きで、仏日学会のシンポジウムに出席するために赴いたことがあります。このシンポジウムは現代社会における教育の変化についてのもので、私にとって素晴らしい思い出になっています。私は、民主主義社会について、その中をつらぬく緊張について、そして幾つかのとても古い組織がその伝統の良い面を損なわずに変わっていけるためにその社会がしなければならない選択について研究をしています。ここ最近の数ヶ月、私が興味を持っているのは、私がソルボンヌに創設した大学政策に関するヨーロッパ学監察局で行っている、最終局面を迎えた日本の大学改革についての仕事であります。私は対話と議論を通じて、日本人とフランス人が、高等教育の現状について、そして我々の社会が存続し発展していくための新しい条件に教育がどのようにして適合していけば良いかについて、互いに考えを付き合わせることに強い関心を覚えます。
パリ、2005/4